「はぁ」

ついに目に見えるところにも痣が入ってしまった。

青白く不健康そうな腕に、くすんだ赤色が入っている。

これではしばらく橘くん達に会えないな、と思いながらそっと撫でるとぴりっとした痛みがあり、すぐに手を離した。

根性で無理矢理動かしていた足を止め、空に蓋をしているような灰色の雲を見上げる。

高田さんは、なぜ、あんなにも橘くんに固執しているのだろう。

そして、親戚から聞いたという、遺伝子関係の話。

あの話の中の知識まだ浅かったが、話を覚えているということ自体が、その知識がたまたま身についたというものではないことを物語っている。

橘くんのお父様の職業のことも考えると、もしかして、それが関係ある、のか?

高田さんの態度と橘くんの秘密は、何か繋がりがあるのか?

母を追い詰めるためにも、その秘密は欲しい。

でも、あの橘くんである。

頭脳で勝とうとするのには、かなりのリスクを伴う。

このまま橘くんに操られっぱなしになるのも悔しいし……どうしたものか……。

青空を侵食した灰色の雲から視線を外し、また、とぼとぼと歩き始めた。
 
気づくと、じゃり、と硬いものが擦れ合う音がして、砂利を踏んでいた。

更に視線を前に向けると、伝統の伺える引戸。

ぼーっとしていたので、つい足が橘くんの家に向かったようだ。
 
ブラックホールのように秘密の重なる、純和風の、家。

「うるさい!!人でなし!!」

ドスの利いた声が、障子を突き破らんばかりの大きさであたりにこだました。

……人でなし?

この声は、いつもとは大分雰囲気が違うが、恐らく瑠璃さん。

一体誰と話している?

砂利が擦れないよう、慎重に移動してから聞き耳をたててみた。

「俺はお前を軽蔑する!!命を粗末に扱い、沢山の人の人生を狂わせた!!」

「命を粗末に扱ってなどない。人聞きの悪い、興奮するな」

「どれだけ……どれだけ琥珀が傷ついているか、お前は知っているか!!」

「琥珀のことはお前には関係ないだろう。お前は自分自身のことに集中しろ。高校の勉強は追いつけてるのか」