自分の遺伝の元を侮辱されるのは不快だったが、正直、そうかもしれない、と危惧する要素もあるのだ。

それに、彼女は隙を見せた。

「知らないの?性格が遺伝で決まるのは約50%。つまり、半分は環境で決まるの。生まれてから生み親と会ってない私の半分は、生み親のものとほぼ違うと言ってもいいわ」

流石に少し盛ったが、高田さんなら気付くことはないだろう、と安心していた。

まあつまり、私がこんな性格なのは、私のせいである、と言いたいのだ。

「50%はあなたの親の性質よ。ほぼ違うなんてことはないわ。それに、顔、体型、運動神経、勉学とかも殆ど遺伝。逆に、芸術センスはあんまり遺伝しないみたい。勉強は努力で、芸術は遺伝みたいなイメージあるけど、実際のとこは反対なのよね」

先程までの意地悪な響きは消え、医者のように淡々と喋り始めた高田さんにクラスメートは、唖然。

「れ、麗華?」

高田さんは魂を取り戻したように、体を跳ねさせ、目を見開いた。

「あ、ああ……ごめん。れいに……麗華の親戚のお兄ちゃんがそういうことに関わるお仕事で……よくこんな話を聞かされてたんだ」

「へ、へぇー……」

「す、すごいね!流石麗華!中途半端な知識ひけらかして恥かく奴なんかとは大違い!」

その一言に、私に視線が集まる。

「で、さ。琥珀にもう近づかないでもらえる?あんたみたいな自己中な人は」

「うっ……」

ダン、と壁に押し付けられ、背中に鈍い振動が伝わった。


悪意ある笑みの向こう側で、何かが揺らめいている。

でも、それを正視できないほど、私の視界も揺らいでいた。

「はあっ?こいつ、何泣いてんの」

嘲るような声や、冷笑が足元から立ち上り、それが私の頭の中を吹き抜けていくことで、やっと瞳に水が溜まっていることに気付いた。

それは、溢れてはいない。

溢れさせてはいけない。

でも、もう無理よ。