――朝。
時間が経つのが、早いのか遅いのか、自分でも感覚が狂う。
窓の外に目をやると、丁度、鳥が飛び立つところだった。
優雅とは程遠いが、一生懸命さが伝わる、そんな飛び方だ。
……私にも飛び立てる日が来るのかな。
この、生き地獄から、孤独の檻から。
はあ、と憂鬱をため息とともに吐き出した。
コンコン
音の響く高さから、千稲ちゃんではないことに落胆する。
……今日は、母かな?
「どうぞ」
ガラッ!
あまりにも乱暴に開けられた音に、肩がびくつく。
そして、訪ねた人物の顔を認識した瞬間、憂鬱なんてどうでも良くなるような驚きが私を襲った。
「え……た、橘くん?」
さらり、と揺れる前髪の下の瞳の光は機械的で、感情が読み取れず、引き結んだ唇は、整った形を崩さない。
動揺で、嫌な汗が全身を流れる。
ど、どうして、また……。
「ど、どうしてここに?」
「……」
私の質問は完全スルー、一文字も発さずにズカズカ私の病室に入って来、私の隣に立つと、そっぽを向いたまま、何かの紙袋を突き出してきた。
「……」
終わりのなさそうな静寂が私達を包む。
……?
彼の意図が読み取れず、ただ瞳を見つめた。
その瞳からはいつもの、鋭く、冷たい煌めきしか発していない。
ガラス細工のように繊細で、洗練された雰囲気が、私を拒んでいるかのように感じ、身じろぎさえ、できなかった。
しばらくの間見つめていると、突然、その煌めきが燻った。
ドンッ
「きゃっ……」
胸に重い衝撃がぶつかり、腿へと滑り落ちる。
それに合わせ、視線を下ろし、衝撃を確認した。
……紙袋。
「え……何、これ?」
「見れば分かるだろ、アホ」
彼は燻った煌めきを晴らし、またいつものように冷たい光を宿す。
そしてその鋼鉄の表情を崩さぬまま、スタスタと足早に私の病室を去った。
……あほ?
捨て台詞を反芻し、紙袋を開く。
取り出して出てきたものに目を剥いた。
『高校1年国語 教科書』
『英語テスト対策プリント!』
『高校2年生になるあなたへ』



