「俺からの報告は以上。如月は?」
 
「私は……これ」

遥斗から貰った写真を見せる。

「橘くんが持ってた写真と同年代のは見つけられなくて、家にあった私の昔の写真は、これだけ」

「これだけ?そんな筈ないでしょ?お母さんとか、持ってるんじゃない?」 

「母に尋ねてみたんですが、喧嘩してしまって……あっ」

重要なことを忘れていた。

このことを問い詰めなければ。

「私の母、橘くんのお父様のことを知ってるみたいなんです」

「え?」

橘くんと瑠璃さんの声が重なった。

「それに、お父様の罪のことも」
 
橘くんと瑠璃さんが一瞬の内に目配せしたのを見逃さなかった。

自分の口調が熱を帯びるのを感じる。

「こんなこと、言いたくないんですが……母は、橘家は異常者の集まりだとか言って私が近づくことを牽制してきました。なぜかわかりますか」

沈黙が酸素を吸い上げる。

胸が苦しい。

「それは、僕らにもわからない。お母様が僕たちのことを軽蔑しているなら、君はここに来ないほうがよかったんじゃないの?」

「そんなことはないです。私は私自身の目で判断します。橘くんたちはそんな人じゃありません」

きっぱりと、二人の瞳を正面から見据えて言った。

「そっか、それならよかった」

「あのさ……」

重くなった空気の中、おもむろに口を開いたのは橘くんだった。 

「俺、お前の母さんに世話になってんの、知ってる?」

こくり、と視線を下に落としながら頷いた。

なんとなく、目を合わせにくかったのだ。

「そんときの付添とか、色々手続きとか、そういうの全部親父じゃなくて、部下にやらせてんだ。つまり、お前の母さんと親父が知り合いなのは、それ以外でってことだぜ」

「確かに、研究者さんで誰とも殆ど会ってない筈なのに、仕事仲間でもない母と知り合いなのはおかしいわね」
 
「おし、そこ、調べてみよっか」

私が作り出してしまった重い空気から一転、そこにいる全員が動き出しくてウズウズしているような、アクティブな雰囲気に戻って安心する。

「如月、母さんとコンタクトとれるか?」

「今のところ、直接は厳しいかな……でも、母の部屋に侵入とかならできるわよ。一回だけしたことあるし」
 
そこまでにっこりと笑顔で言うと、突如橘くんがため息をつきながら机に突っ伏して、私は狼狽えた。

「え、ちょ、どうしたの」

「くくっ、コイツさぁ、親父の部屋に侵入したなんて天藍ちゃんに言ったら軽蔑されるーとか心配してたんだよ、多分。そしたら、天藍ちゃんも同じこと言ってたから、脱力してるってわけ。そうだろ?」

「うるさい」

どうやら図星らしい。

ふーっと、机に向かいもう一度空気を吐き出すと、ゆっくりと顔を上げてテキパキと指示を出し始めた。

「如月はできる範囲で情報収集してくれ。俺と瑠璃は取り敢えずそれを待って行動する。ということで、解散」