「杉野、お前さぁ、誰にでもへらへらしてんじゃねーよ」

「し、してませんけど……」

人の気配が消えた廊下で、丹羽くんは壁に手をついて私を壁との間に閉じ込めた。
同期の丹羽くんがこんなにも怖くて大胆な人だとは思っていなかった。

「仕事中なんだから愛想振り撒いてんじゃねーよ」

「はい?」

なぜだろう……なぜ私は丹羽くんに怒られているの?

「さっきの、あれ何? 男にばっか料理取り分けて、ニコニコと」

丹羽くんは本気で怒っている。付き合いの長い私には分かる。目が怖い。

新商品が完成してチームのみんなと打ち上げの最中、私は突然丹羽くんに連れ出された。無理矢理手を引かれて抵抗すると壁に追いやられている。

「そんなの当たり前でしょ……ほとんど男のチームなんだから」

「お前がやる仕事じゃねーんだよ」

「丹羽くん酔ってる?」

「だったらなんだよ?」

至近距離で睨まれ私は泣きそうになる。誰のために苦手な打ち上げに参加したと思っているんだ。丹羽くんが中心になった商品開発の打ち上げなのだ。この企画がうまくいけば丹羽くんの評価も上がり、出世への道が開けるから私だって無理をして気を遣って頑張ったのだ。

「なに……その言い方……」

「頼んでねーよ。杉野だってメンバーなんだからそういうのは後輩にやらせとけって」

「いや、いいよ……そんなの誰がやっても。ね、もう戻ろう」

そう言って丹羽くんの横をすり抜けようとすると腕を掴まれる。

「丹羽くん?」

「お前も頑張ってくれたから今夜は裏方にならなくていいんだって」

「ああ……うん」

PRも広告デザインも私の担当じゃないのに丹羽くんの残業に付き合ってきた。同期の応援、というのは建前で本当は丹羽くんのそばに居たかったから。それを直接言ったことはないけれど、それでも丹羽くんは私を労ってくれるのだろうか。