恋の花を咲かせた3月の涙。

廊下には昼休みを楽しむ生徒がたくさんいる中、ゆっくりと歩いている峰原さんの事を探すのは簡単だった。


誰も寄らない空き教室。峰原さんはそこに入っていった。


「失礼します」


ささやくような小さな声で入ると、目の前に峰原さんは倒れていた。


「峰原さん!?」


先生を呼ばないと。けれど私が呼びに行ったら峰原さんが一人になってしまう。


だからって他の人には頼めない。


自分から話しかけるのは苦手だし、空気扱いしている人が助けてくれるとは限らない。


その時、袖を強く引っ張られる感覚がした。


それは峰原さんが私の袖を引っ張っていたからだった。


「ちょっと落ち着こうか、鈴木さん」


「峰原さん大丈夫なの!?」


「大丈夫だから」


ゆっくり体を起こす峰原さんはとても優しい声の持ち主だった。


普段もこんなにゆっくり話しているのだろうか?


「誰か呼んでこないと」


「大丈夫。ちょっと休んでいればよくなるから」


「でも……」



「じゃあ、ちょっと手を貸してくれない? 入り口近いとみんなにばれちゃうかもしれないから移動したい」


「分かった」


峰原さんは嘘をついている。今にも倒れてしまいそうな程の熱があるって手を握っただけでもわかるのに。


「ラッキー誰もいないじゃん……って何やってんだ?」


聞き覚えのある声。それは幼なじみだったか海翔の声。


「峰原さんが体調悪くなってしまったみたいで」


「保健の先生呼んでこようか?」


「ありがとう」


勢いよく空き教室を出ていく海翔。


どんどん顔いろが悪くなる峰原さんを前に何をしていいか分からない。


なんて声をかけていいかも分からない。


やけに廊下の生徒の声がうるさく聞こえる。それが私を焦らせる。


先生、早く来て。そう願うしかできない自分が嫌になる。


「鈴木さんは優しいいね。私の事なんて見捨てればよかったのに」


「そんなことできないよ。それに体調が悪い人を心配するのって当たり前でしょ?」


「それもそうだね」


握ったままの手から伝わる熱。私までどうかしてしまいそう。


「連れてきた!」


勢いよく扉が開いたと思えば、海翔と心配な顔をしている保健の先生。


私の役目は終わった。


峰原さんの手を放し立ち上がるいと、「ありがとう」と言われた。


私は何もやっていない。ただ隣で手を握っていただけ。


「お大事に」


仲のいい友達でもない。ただのクラスメイト。


私はそう言う事しかできなかった。