溺愛というには程遠い

「新入生代表、砂塚美都。」
「はい。」

新入生代表として呼ばれ、壇上に上がり礼をする。代表挨拶をして席に戻る。生徒は皆賢そうで、クラス割りに不満な者も満足な者もいるらしかった。

「桜が美しく、春の日差しも暖かくなってきた今日のこの良き日に……」

私はこの学園の新入生代表として、ここに立っていることに誇りなんてものは無かった。私は、誇りとか名誉とかそういう為にここにいる訳じゃなくてお金や地位が欲しいがためにここにいる。おそらく新一年生100名のうち、私以外の99人は誇りや名誉なんかが欲しくてこの学園に入ったのだろう。

なんて、幸運な人達なんだろう。
恵まれた環境で育って来たんだろうな。
そんな、羨む気持ちはもういらないんだ。

「新入生代表、砂塚美都。」

私は、常にここに居続けなければならないから。

「続きまして、在校生代表、生徒会長廣末翔真。」
「はい。」

彼がこの学校の1番の天才。彼が立った瞬間、学年の女子から黄色い歓声が上がる。彼も彼で生徒会長らしくなく、髪は明らかに染めた茶。それに、胡散臭い笑顔。

「新入生の皆さん、入学おめでとう御座います。まず、ここにいるということは、皆さんがあの入試を通ってきたという事です。それまでの努力、是非高校3年間で発揮して頂ければいいなと思っています。さて……」

少しはまともかと思ったがあまり頭が良くなさそうな言葉ばかり使う。
私はこの人を超えて生徒会長にならなければ、海外の大学への入学金免除及び学費保証が効かなくなると思うと少し気が楽だ。

「生徒会長、2年廣末翔真。」

2年。2年って言っていたか?3年生なら生徒会長は夏が終われば代替わりでいなくなると思っていたが2年となると話は別になってくる。1年間は生徒会長が引き継ぐ可能性があるからだ。
学費の為に、必ず阻止する。なんとしても。

「これで入学式を終わります。新入生の皆さんは各担任に従い自分の教室に向かってください。保護者の皆様は今しばらく、その場でお待ち下さい。」

ざわざわと騒がしくなり、担任らしい人を追って辿りついたのはとんでもなく大きい教室。Sクラスは10人。この大きな教室を10人で使うのかと思うと気が引けるほど大きい。

「はーい。皆さん席について。HRはじめますよー。」

先生が手を叩き着席を促す。が、席順なんてどこにも書かれておらず、10セットの椅子と机があるだけ。

「先生、席順は。」
「自由にして頂戴。」

何とも無責任な…と思いつつ一番後ろの窓側の席を取った。日差しが暖かい席だ。クラスメイトに特段興味はないので、カバンから英単語帳を取り出し黙々と読む。先生が自己紹介をしているがほとんど無視。

私は、その日誰とも話さずに帰った。誰かとつるむきは微塵もないのだから。