夜の街はどこか不思議な雰囲気がある。煌めく街に子どもは誰もいない。大人しかいない街は妖艶で、子どもには話せない秘密の時間だってこの街のどこかで今夜も行われている。

繁華街を僕はスーツ姿で歩いていく。今日も会社での仕事は大変だった。営業部のため、笑顔をずっと貼り付けて取引先では過ごさなければならない。今日はいつもより疲れたな。

「お兄さん、あたしのお店で飲んでかない?」

「お兄さん、私のところのお店とっても安いのよ」

胸を強調した衣装を着た客引きを適当にあしらい、僕が向かったのは繁華街の隅にある小さなバー。うるさい通りは少し苦手だ。やっぱり夜の街でも僕にはここが一番あっている。

「いらっしゃいませ」

バーの中に入ると、バーテンダーがすぐに挨拶をしてくれた。僕はカウンター席に座って「いつもの」と一杯カクテルを注文する。

「かしこまりました」

バーテンダーはすぐにカクテルを作り、僕の前に出してくれた。スノースタイルのグラスにマラスキーノ・チェリーが入れられている。薬草系の苦味のある爽やかさが楽しめるライジング・サンだ。