ハッピーエンダー


◇ ◇ ◇


「今月中に出ていくよ。お兄ちゃんは、彼女さんと幸せになって」

昔を思い出しながら、やっと兄を解放してあげられる気がしてホッとした。兄は複雑な表情のまま、照れ隠しもあるのか麦茶をゴクゴクと飲んでいる。

「……光莉はいないのか。恋人とか」

「いないよ」

淀みなく答える。恋人なんていない。誰かに頼ったら、兄のようにしてしまう気がして。

「アイツはどうしたんだよ。いたろ彼氏、大学時代に」

「いないって」

私の表情は険しくなっていく。

「いただろ。彼氏じゃねえってお前は言い張るけど。母さんの通夜に来てた、えっらい色男が。茶髪で喪服の」

ああ、彼のことは思い出したくない。胸が張り裂けそうになる。

「……だから、彼氏じゃないって」

「連絡取ってみろよ。同じ大学だったやつなんだろ? チャラそうに見えたけど、たかが大学生で、付き合ってねえ女の母親の通夜にひとりで来るって相当だぞ。しかも縁のない地方まで」