ハッピーエンダー


兄は彼にお辞儀をしたが、彼はずっと私から目を離さなかった。水樹さんが来てくれた。スマホを持たない彼には、通夜のことなんてなにも伝えていないのに。寂しさはやっと悲しみに変わり、胸の奥に置き去りにしていた気持ちまでまるごと、涙があふれだして止まらなくなった。

「……光莉?」

兄が号泣する私に小さく声をかけ、水樹さんは席へと戻っていく。行かないで、と手を伸ばしそうになるのをグッとこらえた。

親族席へ戻ると、さらに輪をかけて頭は真っ白なままだったが、もう、自分が生まれなければよかったという気持ちは不思議なくらい消えていた。母との別れが悲しい。もう会えないのが寂しい。もっと感謝を伝えたかった。それだけの涙が次々に流れ、やがて心が静まっていく。

水樹さんは泣いてばかりの私を、きっと心の中で抱きしめてくれたのだと思う。