私はどうしてここに立っているのだろう。なぜ、母は死んでしまったのだろう。もしかして私さえいなければ、母はこんなに無理をしなくて済んだのではないか。母と、しっかり者の兄、ふたりだけで幸せだったのに、私がーー。
足の感覚がなくなり、倒れそうになった。そのとき、兄が横から、チョンと私を肘でつついたのだ。
「……あれ、誰」
私にしか聞こえない小さな声で、前を向いたまま、兄はつぶやいた。私は兄の視線を追う。
「え……」
目の前の光景に時が止まった。
三本指でお焼香をし、静かに手を合わせて目を閉じている真っ黒な喪服姿の、目の覚めるような明るい茶髪。一メートルほどの近い距離にいるその人は、まぎれもなく水樹さんだったのだ。
なんで、どうして、水樹さんが?
手を合わせる彼に釘付けになる。目を落としていた彼の端正な顔はフッと正面に戻り、続いて私たちの前に立つ。水樹さんも私を見つめていた。



