「水樹さん、私はしばらく出掛けますけど、ここにいて大丈夫ですからね。鍵も持ってていいですし」

こんな中でも飼い猫を置いていくような寂しい気持ちになり、ご飯は大丈夫だろうか、洗濯はできるだろうかと頭がくるくる回った。しかしよく考えれば、彼はなにもしないお母さんに代わりなんでもやっていたのだから慣れているだろう。待っていてもらうしかない。今は母が心配でたまらなくて、それどころではなかった。

「光莉。駅まで送る」

そうだった。彼は合鍵をポケットに入れ、用意したボストンバッグを逆手に持ってくれた。

「光莉。一応さ、実家の住所教えて。どこにいるのか知っておきたい」

「そ、そうですね」

ドタンとつまずきながら、キッチンの冷蔵庫の扉に貼ってある食材メモを手に取り、ペンで裏面に実家住所を書いた。それを渡すと、彼はポケットに入れる。