聞かれてもわからない。なにも判断できないのだ。言葉に詰まっていると、水樹さんが頭の上で私に小さく「駅まで送る」とつぶやいた。そうか、水樹さんが駅まで送ってくれるのなら、電車に乗れる。どうにかそこまで考えて、兄には「大丈夫。電話に乗れる」とそのまま伝えた。
『わかった。詳しくは会ってから話そう。……おい、気をしっかり持てよ』
「ねえお兄ちゃん……お母さん、大丈夫、なのかな……」
『だからしっかりしろって。とにかく、電車に乗れ。メッセージ送る』
ブツッと通話が切れ、すぐに三十分後の最寄駅に停まる電車の情報がメッセージで送られてきた。駅まで歩いて十分。今から準備して、すぐに出なければならない。
私はフラフラの足でベッドから降り、クローゼットから大きめのボストンバッグを引っ張り出した。とにかく着替えをひと通り詰め込み、財布など貴重品を最後に移した。水樹さんはベッドから立ち上がったが、取り乱す私になにも触れず、ただそばでじっと見ている。



