「あれ、お兄ちゃんから電話だ」
アパートに帰ってから玄関で確認すると、マナーモードで気づかなかったが数分前から何度も着信があった。
珍しい。たまに母の日にどっちがカーネーションの準備をするかでメッセージのやりとりをするようなことはあったけど、こんなに電話が来るなんて滅多にない。なにかあったのだろうか。
「光莉、兄ちゃんいるんだ」
「はい。もう社会人です。水樹さんのひとつ上、かな」
「いいな。俺も兄ちゃん欲しかった」
うちの兄のような兄弟がそばにいたら、彼はひとりで苦しまずに済んだのだろうかと切なくなる。彼と一緒にベッドでくっつきながら、とりあえず着信に折り返してみた。
『光莉!?』
「お兄ちゃんごめん。どうしたの」
『今どこにいる!』
兄の叫びに近い声は水樹さんにも聞こえており、私と顔を見合わせる。
「アパートにいるけど。どうかした?」
『落ち着いて聞けよ。……母さんが倒れた』



