「……馬鹿なこと言うなよ。辞めるなんてなしだ」
兄は声を震わせ、私と目を合わせようとしない。
「そうするのが一番いいと思う。お金がないのに、大学に通うなんておかしいもん」
「おかしくねぇよ! 生涯賃金が大きく違ってくる! 考え直せ。俺のこと気にしてんなら大丈夫だから。な。ほら、なんなら出世払いで返してくれたっていいんだぜ?」
ヘラヘラとおどけてみせる兄をじっと見つめた。爽やかなこめかみから脂汗が出ている。私を援助しなければならないプレッシャーに押し潰されそうになっているのだ。母がずっと背負っていたものが兄に移った。私はそんなこと望んでいない。
「中退して働くよ」
「やめとけ。今回のことでわかったろ。母さんのリスク管理がずさんすぎた。学がないとこういうことが起きる。俺がなんとかするから、大学は卒業するんだ。いいな、光莉」
「ちょっと待って。なにそれ。〝学がない〟って。……まさかお母さんのこと?」



