「年五十万の学費部分なら、平社員の俺の収入でも賄ってやれる。光莉は今までどおり下宿代を負担して。ふたりで協力すれば何とかなる」
「……ねえ、お兄ちゃん」
「奨学金は無利子に変えて、増額はしなくていい。借金を増やすのは俺は絶対反対だ」
早口になっている。焦っていることを隠すときの、兄の癖だ。
「かと言ってアルバイト増やして勉強できなくなって留年するのは一番まずいからな」
「お兄ちゃん。私、大学辞めるよ」
兄のペンを持つ手が震えていた。私は落ち着いて、その手もとを見ていた。
〝3,000,000〟。
これを兄の収入から捻出する。私にはとても、自分にそこまでの価値があるとは思えなかった。



