兄は冷静だが、顔色が悪かった。私がよくわからなくて「ん?」と聞き返すと、兄はテーブルに置いた二枚の保険証券を、私の見やすい向きに直す。

「入院費は医療保険で足りる。掛け捨てだし、特約もほとんど無駄になるけど」

よかった。兄が立て替えた医療費、どうなるのか心配だったから。

「あと、俺たちのために収入保障に入ってた。内容は簡単に言えば、母さんが死んだらひとりにつき毎月十万入る契約になってる」

月十万という数字を大きく感じ、私は安堵した。しかし兄は、その証券を握り潰す。

「……けど、その契約は、光莉が十八歳になったときに失効してる。そのほかには、なんの保険にも入ってない」