「お、お兄ちゃん……」

どこから聞いていたのだろう。兄は眠る前とはがらりと変わり、憎しみのこもった鋭い目で水樹さんを睨みつけ、私に触れようとする彼の手首を掴んだ。

「もう帰れ。二度と光莉に会いに来るな」

「俺をここに連れてきたのはアンタだろ。冬道さん」

水樹さんはまったく(ひる)む様子はなく、それどころかソファの背にもたれ、余裕すら感じさせている。

「ああ、俺が間違ってた。お前は光莉のために母さんの通夜に来てたから男気があると勘違いしていた。妹にその気がないならもう近づくな」

「ハハハッ。おいおい、兄ちゃん今までの話聞いてた? 俺めちゃくちゃ気、あるよ」

「光莉と結婚する気はないんだろ!?」

兄のひと言に、水樹さんは笑顔を消して小さく首をかしげた。

「……お兄ちゃん。もういいから」

私にはわかる。このふたりはいくら話しても交わることはない。お兄ちゃんには水樹さんの価値観を理解するのは不可能だ。