ある日、母親が酒の空き瓶が並べられたベッドで眠り、俺が冷蔵庫を背に座っていたとき。玄関がノックされた。母親は残りの力を振り絞って体を起こし「ルイくん?」とつぶやく。売れっ子になったルイくんが来るはずない。俺は役所の人だろうと思った。店長や学生課がなにかしたのかと。

下着姿の母親にバスタオルをかけてから、俺が「はい」と鍵を開けると、すぐにかしこまったスーツ姿の男が三人、中へ入ってきた。

「ひどい場所だな」

一番背の高い年増の男が、すぐに鼻を塞ぐ。役人じゃない。ヤクザか?

追い返そうかと俺が口を開く前に、背後の母親が涙を浮かべ、数年ぶりに見た女みたいな瞳でこの男を見ていた。

「……うそ……来て、くれたの……?」

体を起こして、するりとバスタオルが落ちる。傷だらけの腕や太もも、ただれた肌を露わにしながら、ヨタヨタと男の方へ這いつくばっていく。途中で俺の顔を見て、男を指差し、「水樹の、パパ」と笑った。