ハッピーエンダー


水樹さんは兄への話はそこそこに、理解が追いついていない私へと向き直った。

「俺、名字変わった。檜山から一条になってる。一条ホテルグループの社長の息子役」

サラッと彼の前髪が揺れ、隠れていた片方のつり目が見えた。

信じられない。一条ホテルグループは誰もが知る大企業だ。

「そ、それは、お母さんが再婚したということですか……?」

「再婚じゃない。俺だけ実の父親の籍に入れ直された。俺の母親を孕ませてポイ捨てした張本人な」

水商売のお母さんが未婚のまま水樹さんを出産したのは聞いていたけど、お父さんが社長だなんて全然知らなかった。

いつの間にか、兄はカーペットで横になって眠っていた。

ソファの上で、私と水樹さんだけが見つめあって座っている。ゾクゾクするくらい綺麗な顔だ。パーツがすべて整っていて、名前通り水のごとく澄んだ顔。変わっていない。

「いくとこまでいっちゃって自分でなにもできなくなったから、施設に入ったんだよ」

「……お母さんのことですか?」

「そうそう」

彼は微笑みながら、ペラペラと喋る。あの頃と同じく、私にはなんでも話してくれるらしい。私も「それで?」と促す。