もうこれで空っぽだ。水樹さんを失って、兄まで離れてしまった。胸の中が寂しさでいっぱいになり、私はまた人肌を求めてさ迷いだす。郷田さんから離れて新しい仕事を見つけても、おそらく同じような人と同じような関係を始めるだろう。私は自分で気づきたくなかった。
私はセックスが大嫌いだなんて嘘だった。
ホテルに行こう。一泊五千円で、この三百万がなくなるまで住み続け、好きなものを食べ、なにもせずに眠る。そしてお金が底を尽きたら、私はそこで終わりでいい。どうせこのまま生きていたって、私は自分の大嫌いだった生き物にしかなれそうにないから。
ビジネスホテルに直行し、とりあえず最後に会社へ出社する日までの三泊四日で手続きをし、すぐに部屋が用意された。
朝食はついている。それ以外のものを売店で買い込むと、それらを好き勝手にほお張った。一度眠り、目を覚ましたのは昼過ぎ。水樹さんからメッセージが来ていた。
【今どこ?】
メッセージをブロック、着信拒否の設定をする。なんだか爽快だ。大切なものをひとつずつ手放していく。
こういうものをパズルのように、正しい手順で当てはめていくのが兄の言っていた普通の幸せなのだろう。見よう見まねで作ってきたガタガタのパズルをひっくり返し、ピースをあちらこちらに投げ捨てる。なにも残らないように。



