彼だけを映していた視界の横から、酔っぱらった兄が乱入してきた。
「光莉、やっぱり取引先の御曹司、あのときの茶髪くんだったぞ! 連れてきてやったんだ! どうだ、うれしいだろ」
御曹司? いや、違う。彼の家はシングルマザーで、お母さんもどうしようもない人だった。悲しい境遇で、私よりずっと貧乏で、大学だって特待枠で無料で通っていた。これは、誰?
「え、ごめん。私、ちょっと混乱してるんだけど……」
私がつぶやくと、水樹さんはカーペットから腰を上げた。珍しい兄より高い百九十センチの身長がゆらりと動き、そして私の隣に座りなおして脚を組む。
身なりはちゃんとしているのに、肩の力が抜けた姿勢はあの頃の軽くて飄々とした彼のままだった。思わず、距離をとった。
兄は水樹さんの肩にもたれかかる。
「水樹くんって、御曹司なのにめっちゃフランクなのな。ビックリしちゃったよ。いいのかな俺、取引先の御曹司と肩組んじゃって。ギャハハハ」
「いいんすよ。俺も冬道さんに見覚えあったからスッキリしました。通夜で見た光莉の兄ちゃんだったなんて、世間狭いっすね」
まともに話すセクシーな声にギクッとする。



