来客がある場合、コンシェルジュがいる時間は内線がかかってくるし、いない時間は、今とは違う音のエントランスのインターフォンが鳴るはず。ほかに鳴るチャイムがあるとすれば、それはこの部屋の入り口のドアチャイムしかないんだけど……。

「ピンポン」ともう一度鳴った。私はリビングに立ち尽くすだけで、一歩も動くことができない。いったい、誰? 婚約者の女性は住居スペースには入ってこれないはずなのに。

私が出るという選択肢はなく、このままやり過ごそうと息を潜めた。しかし、玄関の扉から、水樹さんが指紋認証をしたときと同じ「ピー」という音がし、すぐにガチャンと開く音もする。

コツン、コツン。次は靴の音が、玄関の大理石を歩いている。それは数歩で終わり、続いてゴソゴソと靴を脱ぐ音に変わった。

嘘でしょう。誰か部屋に入って来てる。