ハッピーエンダー


彼はケーキを咀嚼しながら、「今なにか言った?」とキョトンとしたが、私は続きを言ってはいけない、と正気を取り戻した。

下手なことを言って追及されたらどうする。それに、べつに彼に婚約者と別れてほしいわけではない。彼から甘い蜜を吸っている分際で、そこへ踏み込んだらまた彼から奪うだけの関係になってしまう。

「い、いえ。水樹さんもその……嫉妬とかするんだなぁって」

しまった。誤魔化すついでの言葉だが、嫉妬という表現は適切だっただろうか。彼のことだから、正常な嫉妬とは限らない。顔色をうかがいながら、ドキドキして返答を待った。

「するよ。光莉のことに関してなら」

うわぁ。それは、うれしい……。

数秒前のモヤモヤがこれだけであっさりと晴れていく。甘い言葉を吐くときの彼の挑発的な笑顔は、心臓に悪い。