ハッピーエンダー


私は動揺しすぎて言葉に詰まったが、深呼吸をし、冷静になる。彼を押し戻して向かい合ったままきちんと座ってもらい、私も馬乗りになっていた足を閉じる。

「喫煙する上司が何人かいます。辞める相談をしていたとき、匂いがついたのかも」

彼の表情は怖いままで、まだ疑っている。私の体を舐めるように見た後、顔に目を戻した。

「すげぇ不快だわ。光莉にほかの男の匂いがつくの。俺以外にあんまり近づくなよ」

低い声、そして独占欲をむき出しにした言葉にドキッとし、熱くなった顔をパッと背ける。私が「はい」と小さく返事をすると、水樹さんは怒りを収めるためか自分のケーキに付属のフォークを刺して口へ運び、糖分を摂取し始めた。

どうやら追及はされず、忠告だけで済んだようだ。ホッとすると同時に、モヤモヤが心の中を支配していく。郷田さんに「自分だって不倫してるくせに」と言い返すときの気持ちに似たものが、水樹さんに対しても涌き出ている。

「……水樹さんだって」

ついに我慢できず、口から出てしまった。