水樹さんは自分のことを汚いと言うけれど、私はそうは思わない。このケーキのように、美しく、綺麗に映っている。若く清潔だし、端正な顔だし、それでセックスは大嫌いだという潔癖な性格。今まで必要に迫られて何人と寝てきたのかは知らないが、それでも彼は綺麗だ。綺麗すぎて、ときどきまぶしい。
マンションへ戻ると、渡されていたカードキーで、すべてが開いた。水樹さんはすでに帰っていて、玄関に革靴が投げられており、奥から「おかえり」と声だけが聞こえる。
「ただいま。早いですね」
珍しく、彼はリビングにいた。ソファに横になり、足を立てて組んでいる。
「一回顔出せばいつでも帰ってよくてさ。あ、そうだ、光莉の兄ちゃんにも会って〝よろしく〟って言われたぞ。無責任だな、あの人」
ズキンと胸が痛み、なにも反応しなかった。兄を悪くは言わないでほしいけど、そのおかげで兄に依存しなくなったから、複雑だ。



