「ハァ……ハァ……」
駅前の喧騒の中、膝に手を置き、中腰の姿勢で息を整えた。
思いきり逃げてきちゃった。だってあんなの、気持ち悪いったらありゃしない。郷田さんが奥さんと離婚すると言い出したときからなんとなく距離を置いていたけど、最近は本当にひどいんだもの。
「光莉がいないと生きていけない」だって?
どこが。奥さんと子どもとの笑顔の写真が待ち受けだったし、私を抱くときも結婚指輪を外し忘れる。それっぽっちの気持ちしかない郷田さんごときが使っていい言葉じゃない。
もっと追い詰められて、苦しんで、わかち合う存在はもうお互いしかいない、そんな関係になってから使うものだ。私にとっての、水樹さんみたいに。
やっと顔を上げて、駅近くのケーキ屋に目をやった。白と黒のスタイリッシュな外観、ガラスケースの中には色とりどりのケーキが並んでいる。綺麗。水樹さんに買っていこう。
吸い寄せられるように店内に入る。ケーキを見て、キュンと胸が疼いた。コーティングされたフルーツや、つやつやのガナッシュが、まるで水樹さんのようだ。



