「……光莉」
彼の手は私を包み、コピー機に押し付けてクッションのように抱き潰してくる。タバコの匂いが鼻をかすめ、私は息を止めた。
「郷田さんは奥さんとお幸せに。もうこういうことはやめた方がいいですよ。奥さん本当は気づいてて、ある日全部失っちゃうなんてこと、よくありますから」
うちの父親のように。
「どうしてそんな冷たいことを言うんだ。好きだって言ってくれたろ……」
そう、帰る家がある人は好きだ。そういう人からは、どんなに甘い蜜を貪っても無くならない。身の丈に合わない過剰に持ちすぎている幸せをこちらに分けてくれて、私の空っぽな心を埋めてくれる。だから私がいなくなったくらいで喚かないでほしい。
「しかたないですよ。引っ越すんですから」
「どこに?」
私は不快になり、体を離した。



