自分が結婚するからって、私にまで恋愛を押し付けようとしていると感じイラッとした。今さら彼に連絡なんて取れない。五年前からそれっきりなんだから。
「放っといて。あの人が今なにしてるかなんて知らない。会いたくないし」
会いたくない。早く忘れたい。もう夢に出てきて欲しくない。
「ていうかさ、そいつ、なんて名前だっけ?」
「忘れた」
「嘘つけよ! 絶対覚えてるだろ! 取引先の御曹司がめちゃくちゃイケメンでちょっと似てる気がするんだよな……もしかして〝一条〟って名前じゃないか?」
ハアーッと、喉の奥からため息が出た。お兄ちゃんたらいい加減なこと言って。
「ぜんっぜん違うんだけど。御曹司とかじゃないし」
「なんだ、違うのか。ソックリだったんだが……まぁそうか、茶髪じゃなかったしな」
一条でも、御曹司でもない。
野良猫みたいな二つ上の先輩、あの人の名前は、檜山水樹だ。



