それから俺は、いつもより一本早い電車に乗るために兄貴よりも早く家を出るようになった。
 朝、昇降口で彼女と挨拶を交わし、教室まで二人で歩いていく、そのほんの数分間が、俺の生きがいになっていくのに時間はかからなかった。

 昼間の休み時間、彼女は女子グループの中で会話してるし、理科の実験とかで隣の席に着いても、彼女が一生懸命実験してる横で、実験とは別の話も出来ない。

 でも、朝のひと時があるから我慢出来た。

 ある時、兄貴が言った。
「最近のお前、気合の入り方が違うなあ、俺より早く家を出て一体何をやっているんだ? 毎朝楽しそうに出て行くのは気のせいか?」

「まさか学校で朝勉でも始めたのか? お前の今の気合があれば、俺と同じ学校に来れたのになあ」
 兄貴は俺が自分より早く家を出るのを、俺のやる気スイッチが入ったものと勘違いしているようだ。

 でも、俺は兄貴とは別の事を考えていた。
 兄貴と同じ高校に行ってたら、朝の彼女と出会えなかったじゃん。兄貴の学校に落ちて、本当に良かった。

 このまま、朝の彼女とずっと同じ時間を過ごせたらと思っていた。そして、いつか彼女と二人だけで沢山の話をする特別な関係になりたいと、本気で思う様になった。