昇降口に行ったら、同じクラスの女の子も上履きに履き替えているところだった。

 何気なく、朝の挨拶をした。
「お早うー!」

 俺的には、誰にでもする普通の朝の挨拶だったけど、彼女はビックリしてこちらを振り向いたようだった。

「あれ? 脅かしちゃった? ごめんね」

 俺の言葉に対して、彼女は、被りを振って答えた。
「イエッ、イエ。大丈夫です」

「私、人から朝の挨拶された事が無いので、少し驚いてしまって……。こんな朝早く、学校に登校する方なんて、私だけだと思ってました」
 彼女は少し恥ずかしげに、でもチョッと嬉しそうに、ユックリと言葉を選びながら答えた。

 あッ、ごめんなさい。こちらからの挨拶がまだでしたね。それでは、改めまして……、

 ―― 彼女はそう言いながら、俺の方に体を向けて ――

 「おはようございます」。改まった口調で、小声だけれどハッキリとした挨拶をしながら深々と頭を下げた。

 ソバカスの少し残った、笑顔が印象的な女の子だった。こちらの目を見て話しかけてきた時、メガネ越しに見える彼女の瞳も魅力的に思えた。

 ―― えー、こんな子だったっけ? 確かに同じクラスの女の子だよな。――

 クラスにいる時は、いつも気配を消しているような、あまり印象の無い女の子だよな。でも、改めて正面から見ると、凄ーく印象に残る女の子だった。喋り方も、落ち着いた喋り方をするので、クラスの他の女の子に比べると少し大人びて見えた。

 その日は、そのまま教室まで二人で歩いて行った。俺と彼女の間に会話は無かったが、何故か落ち着いた気持ちになれた。

 教室に着いてから、そこで彼女に色々と話しかけたかったが、彼女がカバンから小説を出して読み始めたので、俺は邪魔をしないようにそっと自分の机に向かった。
 彼女が小説を読んでいる後ろ姿を所在なく見ていたら、俺は何故か安心して眠りについてしまった。

 ホームルームが始まるまで、爆睡していたようで、目覚めはスッキリしていた。