一夜明けて、二年五組の教室は重い空気が流れていた。

 一つだけ空いた席には、菊の花が挿してある。ふざけている生徒もいたが、中川教諭が教室に入って来てからは、誰もが表情が硬い。

「みんなも知っているだろうけど……詳しい理由は知りませんが、とても残念です……」

 中川教諭は目を真っ赤にし、泣くのを堪えている。

「先生!」

 ゆかりは意味ありげに、席を立って中川教諭のいるところに近づいた。

「どうした?」

「私、理由を知っています。敏也くんは、いじめられていたのではないでしょうか」

 ゆかりの声は教室に響いた。

「いじめがあったのかね?」

「はい、最後の登校の日も朝から顔色が悪かったし、敏也くんは私たちの輪からいつも外れていましたんで、少し気にしていたんですが、本賀正充くんと何かもめ事があったようなんです」