鉢田敏也(はちだとしや)は門をくぐると、いつも異様な感じがした。目の前に広がる景色を見た。灰色に変色した校舎、使用していない外階段。生徒たちも静かに登校して来るので、囚われの身に見える。

 敏也は下駄箱で、上履きに履き替えた。校舎内にある階段を二階までの上った。踊り場を出ると、左右に長い廊下がある。左に曲がれば二教室が並んでいて、突き当たりには理科室がある。

 敏也は右に曲がった。長い廊下を歩いて、五教室の一番奥が二年五組の教室だ。

 八時三十分ぴったりに着いた。今日も頭痛がする。特に中学二年生になってからはひどい。

 いつも陽気なクラスが今日に限っては違っていた。誰かを囲んでクラスの者が話を聞いているようだった。

 輪の中心は村川ゆかりだった。顔全体の造りが小さいゆかりだが、話をさせたら盛りすぎて、どこまでが本当だかわからないほどだ。

 敏也の席は一番後ろで、窓側だった。

 椅子に腰かけた。敏也は窓の外を見ているが、耳はだけはゆかりの話に傾ける。

「どうしようかな。怖すぎだし……」

 ゆかりは勿体(もったい)ぶるように、話を止めた。

「早くしろよ。授業が始まるだろう」

 しびれを切らした男子生徒がゆかりを急かした。