「年頃だからっていうのもあるけどさ…お兄ちゃんにもっと優しくしなさいよ」

「…」

「あんた昔はお兄ちゃんお兄ちゃんってずっと颯の後ろついていってたのに、いつからこうなっちゃったのかしら」

「そんなの昔の話じゃない」

「覚えてるかしら。楓が幼稚園の頃お兄ちゃんと結婚する!!っていって覚えたてのひらがなで婚姻届みたいなの書いてたのよ」

「もうお母さん!」


もちろん覚えている。なんならまだその婚姻届もどき、引き出しの中に大事にとってある。


「ふふふ、それだけあんたがなつくくらいに、颯は楓のこと可愛がってたってこと。だからもうちょっと、優しくしてあげなさいね」

「…いってきます」


お母さんは何も知らないからそんなこと言えるのよ。

きっと私の気持ち知ったら、お母さん泣いちゃうだろうな。

自分の子がもう1人をすきになるなんて。






「こんにちは」

「こんにちは、蕨(わらび)先生」


家から徒歩10分ほどにある駅前の個別指導塾。

学校の授業についていけるよう、中学受験を終えたあともずっと通い続けているのだ。


「じゃあ早速宿題見せてくれる?」