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「ただいまー」


部屋の外、つまり玄関から聞こえたそ聞きなれた声に体が無条件に反応する。

でもこの声は俺とよく似ていて、俺のものになることは一生ない。

そう思うとじんわり目に涙が浮かんできた。

唇を強くかみしめそれを奥に抑え込む。


「なんで帰ってくんだよクソ兄貴」


これが俺の、精一杯の"おかえり"なんだよって、颯真にはわからないんだろうな。


「そんなこと言いながら、出迎えてくれるんだから楓真は昔から変わらないな」

「は、はあ?! 便所行くだけだし自惚れんなよクソ兄貴!」

「楓真」


突然腕を掴まれて。


「なにすんだよ」

「楓真」


俺の体は廊下の壁に追いやられた。

早くなる鼓動。知ってるぞ、これ、壁ドンって言うんだろう?

なあ颯真、これをするのは俺にじゃないだろ?


「学校で何かあったのか?」

「っ……」


そして、颯真の手は俺の瞼に触れてきたんだ。

この指の感触、そこから伝わる颯真の体温、いつもより近くにいるから感じる颯真の匂いと、息遣い。

どれも俺と似ていて少し違う。

気がおかしくなりそうだ。

全部俺のものにしたい、でも。


「……なせよ」

「ん?」

「離せよっつってんだよ!! なにもわかんねえくせに口出してくんじゃねえ!!」


思いっきり颯真を押しのけ、溢れだしそうな涙を抑えながら俺は自分の部屋へと閉じこもった。

どうせ俺のものにならないなら。どうせお前のものになれないなら。


「そんなに、優しくすんなよ……バカ颯真……」