「颯はね…あなたのお兄ちゃんはね、今男の人と付き合ってるの。晴人くんよ、知ってるでしょ?」



コトン



私の手から、カバンがずり落ちた。

ザワザワしたもの…嫌な予感が完全に当たってしまった。


「いい加減にしないか!!今楓に言うことじゃないだろ。楓、今は部屋に行ってなさい」


そんなお父さんの声がどこか遠くから聞こえてくる。

ごめんね、お母さん。

お兄ちゃんとは違うけど、私も”普通”じゃないの。



『颯によろしく』



『これは晴人のだ。楓も知っているだろう。俺が晴人の部屋にBL本を持ち込む仕返しだとかでこうして俺の苦手なジャンルを置いていくんだ』



『晴人は、俺がほかの女子と話してたらヤキモチ妬いてくれるか?』



お兄ちゃんの友達とは他にも何人か会ったことがある。例えば健志さんとか。

でも、晴人くんだけよく一緒にいて、話に沢山出てきて、そしてどこか特別で。

わかってたはずなのに、どこか信じたくなくて。


「……ごめんなさい」


心ここに在らずなお母さんにそう呟き、カバンを拾いリビングを出た。

お兄ちゃんは、まだ帰ってこない。
私の隣の部屋のドアを開ける。