「ひっ」


どうせクラスメイトのやってることなのに、つい驚き声が出てしまった。


「松戸さんこっちへ」


それなのに先生は全く驚く様子を見せず私の手を引いてくれた。

そんな調子で進んでいき出口前の手作りの井戸についた。

ここの動きはわかる。シフトの時の私の配役、貞子がここから出てくるのだ。


「うーらめしやー…あ、楓さん」

「ふふ、名前呼んだらダメじゃない。あと襟が曲がっているわ」

「あ、ありがとう…」


貞子役のクラスメイトは頬を染め井戸に戻って言った。


「うん、やっぱり本格的だったね」

「先生、1度入ったでしょう?」

「あ、わかっちゃった?友達と入ってね。友達って言っても幼なじみなんだけど」


そう、少し寂しそうに語る先生。


「ね、元気出た?」

「え?」

「校門で手を振る松戸さん、とっても悲しそうだったから」

「…!そ、そうでしょうか?」

「そうだよ。俺にはわかるって前言ったでしょう?」


そうか、だから先生は強引に一緒に回ろうだなんて。

これだから、塾でも人気なんだろうな。


「俺ね、昔好きだった女の子がいたんだ」


廊下の窓際にもたれ掛かり先生は話し始めた。