「えええ、そんなことないわよ」

「楓(かえで)先輩は、気になる殿方とかいらっしゃるんですか?」

「…そうね」


『─高輪ゲートウェイ、高輪ゲートウェイ』


「あ、ついてしまったので私はこれで」

「お疲れ様でした!」


高輪ゲートウェイ駅は私の家の最寄り駅だ。

後輩と別れ家の改札口の方へ向かうと…。


「…!」


胸をぐっとおさえる。

そこには、見慣れた後ろ姿。

人一倍背が高くそれでいて細身の、短い黒髪が特徴の男。

間違えるわけが無い、5つ年上の大学1年生の私の兄─松戸 颯(まつど はやて)だ。

カバンをぐるぐる回し十分な遠心力を蓄えその後ろ姿目掛けて思いっきり振り上げる。


「うわっ!」

「チッ、はあなんでクソ兄貴なんかと会うかな最悪」

「いった…楓も今帰りか」

「ええそうよ。私が今から帰るからクソ兄貴は遠回りして行きなさいよ。あんたと一緒に帰るなんて死んでも嫌よ」

「それはあまりに理不尽じゃないか…?まあいい、ちょうどそこの本屋に寄ろうと思ってたから」

「ちょ…あっそう。ずっとそこにいなさいよあわよくば二度と帰ってくんな」

「なんだって…でもBL本に囲まれてずっと過ごせるのは、いいな…」


こいつはこの通り、BLがないと生きていけない根っからの腐男子だ。