ふと気付くと、いつの間にか戻ってきたのか、柳田が扉付近で思い切り向井に睨みをきかせていた。

「向井、一花に手を出すな」

「はいはい」

呆れた返事をしながら、向井はヒラヒラと両手を挙げて見せた。
柳田の一花への愛が重すぎて、その矛先がいつも向井に刺さりとても面倒くさい。

「社長、向井さんは何も悪くないですから」

そうやって向井を庇う一花なので、余計に拗れてしまう。

向井としては一花を恋愛対象と見ておらず、柳田に牽制されるいわれはないのだが、仕事上どうしても一花と二人きりになる機会も多いので、柳田としては心配な様だ。
しかも一花は柳田と付き合っていることをひた隠しにしている。

「ああ、面倒くさい」

向井の心の声が、思わず漏れ出た。