「父が厳しくて小さい頃から家庭教師をつけられました。それが嫌で毎日抜け出して公園へ遊びに行き怒られていましたね。勉強より遊びに夢中でした」

「それは意外ですね」

穂香の相槌に一花もうんうんと小さく頷く。

「学生時代はいかがですか?」

「剣を振り回したかったので剣道部へ入りました。ところがこれが、振り回すどころか作法が厳しくて。そこで礼儀作法をしつけられたようなものです。まあそれでも剣道にのめり込んで剣道バカでしたね。高校三年になってようやく慌てて受験勉強を始めましたよ」

へえええーと、気を抜くと声が出てしまいそうなほど、一花にとっては意外だった。
柳田といえば、上流階級のお坊ちゃんでわがまま放題の人生を歩んできたんだと勝手に思い込んでいたので、彼の口から語られる生い立ちはいたく興味を惹かれた。

(社長も普通の人間だったんだなぁ)

普段から近くで仕事をしているのに、俺様具合や強引さを差し引いたとしても柳田にはオーラがあり、一花はそれをひしひしと肌で感じていた。

(剣道バカとか、意外。どちらかというと向井さんの方がしっくりくるなぁ)

そんなことを思いつつ向井を見ると、バチっと目が合いニヤリと笑った。

「ね、面白いでしょう?」

向井の言葉に、一花は素直に頷いた。