「お前、厳しくしすぎなんじゃないか?」

閃いたと言わんばかりの柳田に、向井は呆れたため息をつく。

「モテすぎて困るんだろ?お前の責任」

今回もサポート秘書が同時に二人辞めてしまった。どうやら一人は向井の厳しさについていけず、もう一人は柳田に告白してフラれたようなのだが……。

柳田は会社立ち上げから今まで、幾度となく社員に告白されいとも簡単に断ってきた。“モテて困る”とは人生で一度くらいは言ってみたいもののような気がするが、柳田にとっては迷惑極まりない。

向井は小さくため息をつく。

「いっそのこと秘書は男にしたらいいだろ?」

「バカ、お前、俺の隣には花が必要だろ?」

「……バカはお前だよ」

向井は一瞥すると、またしてもため息をついた。
サポート秘書が辞めるのはこれで何度目だろう。もちろん柳田のモテすぎるせいだけではなく向井が仕事に対して厳しすぎることも要因であり、もちろん自分にも非があることはわかっている。

男に興味がなく仕事ができてちょっとやそっとのことではへこたれない、それでいて柳田に花をもたらす人物。そんな都合の良い人材がいるもんかと、向井は考えるのをやめようとしたそのとき、ふと以前別の社員から相談されたことを思い出した。

“受付なのに愛想がいまいちなんですよ。仕事はできるし可愛い子なんですけどね”

向井は柳田をチラリと見る。
バカみたいな軽口を叩いていたかと思えば今はもうオンラインで外国の取引先と打ち合わせを始めている柳田。

「……仕事バカなんだから、早く結婚でもして落ち着けばいいのに」

一人ごちた向井の小さな呟きに柳田の冷ややかな視線が突き刺さり、その地獄耳さに向井は苦笑いをした。