誰もが羨む展望豊かな高級オフィスビル17階の社長室で、社長の柳田直己は柄にもなく困っていた。

いや、困っているところを社員にはおくびも見せない。だから、側近中の側近である向井にだけ、このことを打ち明けた。

「なあ、俺ってモテすぎだと思わないか?」

「モテ自慢なら他所でやれよ」

一瞬パソコンの画面から顔を上げた向井が、話の内容を察するにすぐに画面に視線を戻し、冷たく返す。

向井の飄々とした態度には柳田も慣れたもので特に気に病む様子もなく、また一人で考え込み始めた。

柳田は三十一歳。
大学卒業を待たずして起業し、今や国内外から一目置かれるくらいに急成長した医療品関係のベンチャー企業を経営している敏腕社長だ。
スラリとした容姿と甘いマスクに恵まれ、時々イケメンプレイボーイ社長として雑誌に取り上げられるほどにそこそこの有名人だ。

一方向井も、柳田とはまたタイプの違う端正な顔立ちの敏腕秘書で、時としてイケメンツートップと持て囃されることもある。柳田とは高校からの付き合いで、役職は秘書というものの何でもそつなくこなし会社の経営を影で支える功労者とも言える。

そんな二人の元で働く女性社員たちは彼等の甘いマスクに惹かれつつも、半分は柳田の知られざる俺様ぶりに引き、もう半分は温厚だと思っていた向井の鬼のような厳しい仕事ぶりにギャップを感じ会社を去っていくのだった。