彼女──高峰さんが初めて私の前に姿を現した、あの日……12月26日……。


あの日の、あの後のやり取りを私は思い出す。




あの時──彼女は「あなたが私の言う条件をちゃんとクリア出来たら、考えてあげるわ」と、妖艶に笑いながら言った。



「条件……?」


きっと恐ろしい条件に違いない。


そう身構える私に、彼女はあるものを手に、言い放つ。



「先生が一番言われたくない言葉を言って、別れなさい。それをこのボイスレコーダーに録音するの」



意味が……分からない……。


答えられずにいる私にイライラした彼女は、私にボイスレコーダーを突きつけた。



「仮にも彼女なんだったら、分かってるでしょ? あの人がいま一番言われたくないと思ってる言葉。何でも良いけど、先生があなたが切り出した別れに確実に首を縦に振る、そんな言葉よ」



美しい顔でニッコリと笑う彼女の顔が、私には恐ろしくて堪らない。



「一部始終をこのボイスレコーダーに録音して来て」



──何と言う恐ろしいことを言う人なんだろう。


この人は本当に先生のことが好きなんだろうか?


本当に好きなんだったら、こんな残酷なことは出来ない。


好きな人を傷つけて喜ぶなんて事、私には到底理解が出来そうに無い。



彼女の言葉にまだ答えられずにいると、痺れを切らしたのか、その美しい顔が一変して怒りに変わる。



「聞いてるの!?」



聞こえては、いる……だけど、理解出来ない……。


私は仕方なく、コクリと頷いた。


──頷くしか、無かった。



「期日は今年中よ。大晦日までだから……今日を含めても6日ね。31日の夜にそれを取りに来るわ。その場で確認するから、ちゃんと録音しておかないとどうなるか……」



私は彼女の恐ろしい言葉に、私は再びコクリと頷いた。



「あぁ、そうそう。もうひとつ言っておくわ。──失敗は、許さないから」





そう言い残して、彼女──高峰美雪は、原付バイクで去って行った……。