雨に打たれながら少し歩いた所で、急に私の周りが暗くなったことに気付いた。
そして、パラパラと雨が何かに当たる音、それはアスファルトに落ちる音では無く、まるで雨が傘に当たるような音……。
足を止めてふと顔を上げると、若い男の人が私に傘を差し掛けていて。
その男性は私に「大丈夫?」と問いかけて来たけれど、私はその声には答えず、差し掛けられた傘をスッと抜けて再び家へと歩き出す。
「あ、待って」
腕を掴まれて傘の下に引き戻されてしまった。
「そのまま歩いたら、ずぶ濡れだよ? 風邪引くから」
そんなことはどうでも良い。
「傘、持ってないんだ?」
私は頷きもしない。ただ、ぼんやりと足下を見つめるだけ。
「どこまで行くの? 家に帰るところ?」
私は何も答えない。
きっと親切で声をかけてくれたに違いないのに、この時の私は自分自身のことだけで精一杯だった。
何かを口にすれば、大声で泣き出してしまいそうで……。
誰かにすがりついて、泣いてしまいそうで……。
「あー……、俺、あのアパートに住んでるんだけどさ。見える? あそこの二階の、一番右。あの前を通り過ぎたらこの傘あげるから。差して帰りな。ね?」
そう言って私の顔を覗き込んだその男の人は、私の目から止めどなく溢れ出る涙を見て、困ったように眉尻を下げた。
私だって、涙が止まらなくて困ってる。
この知らない男の人がなぜか親切で、困ってる。
私なんか親切にされる資格なんて無いのに。
「とりあえず、歩こう、このままだとホントに風邪ひいちゃうから」
歩き出さない私の腕を優しく掴んで、その人は歩き出した。



