先生がいてくれるなら②【完】


すると、思ったよりもずっと近い距離に新卒の先生──細川先生の顔があって、とても驚いた。


あぁなるほど、確かに格好いい、とは思う。


みんなが騒ぐのも無理は無い。


でも私はもっと綺麗な顔の人を知っているから、心が動くことは無かった。



それよりも……


「あの、近いんですけど……」


私の顔をほぼ真上に近い角度から見下ろしている細川先生に驚き、思わず一歩下がった。



「あのさ、もしかすると、きみ、あの時の子じゃない? 年末の雨の日に、駅前で……」



そう言われて……私は、思い出したくも無いあの日の出来事を思い出す羽目になったのだ。




あの日────


そう、あの日──私が藤野先生に「別れて下さい」と告げた、その日──。



私はカラオケの個室を後にし、なんとか電車に乗って自分の家の最寄り駅にたどり着いたは良いけど、予報には無かった雨が降り出していた。


普段なら駅前のコンビニで傘を買うなり、駅で雨宿りするなり濡れない方法を考えるのだけど……あの時はそんな余裕なんか無くて、ただただもう家に帰って、大声で泣きたかった。




あの時、私は傘も差さずに、ふらりと駅を出た。


決して強い雨ではないけど、そのまま家まで10分も歩き続ければ上から下までしっかりずぶ濡れになりそうなほどには降っていて。


年末の気温で冷たい雨に濡れたらどうなるかなんて、その時の私にはどうでも良いことだった。


それで風邪を引いたって、罰が当たったんだ、ぐらいにしか思わなかった。



そんな寒空の雨の中を傘も差さずにフラフラと歩く私を、きっとたくさんの人が不審に思っただろうし、頭のおかしな女だと思って見ていた人も多いに違いない。