私はウォーミングアップを終えてリレーの整列をする前に、3組の応援席に立ち寄った。


「市橋君、ちょっといいかな?」

「あ、立花さん。リレー、アンカーなんだって?」

「そうなの。それで、お願いがあるんだけど……」


私はそう言って、ちょっと声をひそめた。


「あのね、藤野先生が走るところ、動画で撮って貰っても良いかな?」


私が遠慮がちにそう尋ねると、市橋君は頷いて「いいよ」と請け合ってくれた。


「ありがとう! な、内緒にしてね……」


市橋君は、うん大丈夫、と頷く。


私の言うところの『内緒』の意味を、市橋君はどうやら正確に理解しているようだった。



──私と先生の事、いつバレたんだろう。後で聞かなきゃ。