先生がいてくれるなら②【完】


夏に訪れた時とは少し違う、秋特有の澄んだ空から吹き下ろす爽やかな風が気持ちいい。



あの時と同じように、私と先生は手を繋ぐ。


でも、あの時とは違う。


あの時は、私の気持ちはまだ先生には届いていなかった。


あの時、先生がなぜ私をここに連れて来てくれたのか、全く分からなくて。


あの時は幸せの中に、とても高い濃度で不安が混じっていて。



だけど、いまは──。



私は隣を歩く先生を見上げると、先生も私に視線を合わせて微笑む。


先生の優しい笑顔が嬉しくて、私は繋いだ手にちょっとだけ力を込めた。


すると、先生の表情が……ちょっと悪い顔になって、案の定、繋いだ手をわざと少し緩めて、私の手の平を親指でスルリと撫でた。


「!!」


あの時と同じ事を、またやるんですか!?


先生の悪魔!!


私がそれ、くすぐったいって感じるの知ってて、やっちゃうんだ!?


私が先生を睨むと、先生は何も無かったような表情で「ん?」って笑ってる。


「もうっ、先生のバカ!」


そう言って私は先生の手を振りほどいて、砂浜を走った。