碧子の重い声が部屋に響く。圭介は「えっ……」と呟いた。音がかき消されていく。圭介の耳には、碧子の声しか聞こえなくなった。

「世間は大きな犯罪をすぐに忘れていく。でも、ご家族は忘れることはない。犯人が逮捕されて裁かれても、愛する家族は戻ってこない。その悲しみや苦しみを死ぬまで繰り返すの。犯人は塀の中で守られて生活する。でも、ご家族は誰からも助けてもらえずに悲しみ続ける。だから、事件に終わりなんて永遠にやって来ないの」

碧子は一瞬だけ蘭を見て、部屋を出て行く。蘭は珍しく眠ってしまっていた。その顔に圭介はドキッとしつつも、碧子の言葉ですぐ胸はかき乱される。

テレビでは芸能人カップルの結婚のニュースが報道されていたが、圭介は幸せを全く感じることができなかった。



蘭は夢を見ていた。思い出したくないと願っても見てしまうあの時の記憶を……。

星夜が撃たれ、仲間が殺され、蘭は狂ったように叫んだ。その時、また近くて銃声が聞こえてくる。蘭は素早く振り返り、そこにいた人物に目を疑った。