はつ恋。

―――ガラガラガラ。


バスケ部が走っていなくて妙に静かな廊下に、その音は良く響き渡り過ぎた。

私は深呼吸を1つして声を張った。


「あの、2年2組の花室日奈子です。春川先生いらっしゃいますか?」

「は~い。ワタシはここよ~」


と言って春川先生はなんと私の背後から登場した。


「何々ぃ?どうしたの?」

「あの、えっと、そのぉ...。こ、これを先生にと思って...」



―――娘さんの代わりにカーネーションをプレゼントしようと思い、持って参りました。

―――宜しければ、花を持って写真に写っていただけませんか?



用意していた言葉は全部廊下の窓の外から吹く風に乗せられ、流れていってしまった。


「あら、素敵ねぇ。もしかしてこれが敦子ちゃんが言ってたサプライズ?」

「あっ、えっと、そのぉ...」


あっちゃん、事前告知してたんだ。

だから、タイミング良く現れたのかも。


「本当にありがとね。カーネーションをもらえるのはまだ先かなって思ってたから、今日もらえて嬉しいわ。来月号の新聞に載せるんでしょう?ワタシのこと、少しはキレイに撮してね」

「いえいえ、元から先生はキレイです!」

「あら、そうかしら?ありがとう」


私は震える手でカーネーションを渡し、先生に立ち位置を細かく指示した。


「さすが、新聞部のカメラマンさん。プロみたいよ」

「いえいえ、決してそのようなことは...」

「そんなに謙遜しないの。誉めてるんだから」

「は、はいっ」


目上の人が相手だと、足はガクガク、腕もプルプルだけど、これは私の仕事だから、やるしかなかった。

私は覚悟した。

カメラを構える。

先生には中庭に出て、青いベンチに腰掛けてもらった。

対照的な真っ赤なカーネーションが先生の手にしっかりと握られている。


「では撮りまーす。はい、チーズっ!」


―――カシャッ。