車両のあちこちに(きざ)まれた血の痕跡(こんせき)


車窓(しゃそう)()り付いた血の手形。



その合間(あいま)で流れる(あま)の銀河。



 死と幻想。



その対照的(たいしょうてき)なコントラストが、
極上(ごくじょう)のアトラクションの(さま)で流れ続けていた。


その夢の狭間(はざま)で、
ただ胸から伝わる小さな温もりだけが、
僕を現実世界に(とど)ませていた。


胸の中の小さな命が僕に勇気をくれた。


前方の壁には大きなモニターテレビが()えつけられ、
その左右に1つづつ次の車両に続く扉がついていた。


テレビからはザーザーという白黒の砂嵐が流れていた。


その砂嵐の中から、
何かがじっとこちらを見つめている気がして、
僕は目を()らす。


その嵐の向こうに、
座席に座ったままこちらの世界を見つめる、
血まみれの老人が見えた。


僕は瞬間、込み上げた恐怖に硬直(こうちょく)し立ち止まると、
胸の中の少女が顔をもたげ、
こちらを(あお)ぎ見ていた。


『どうしたの?』


「なんでもない」



僕はその声に冷静さを取り戻し再び確認する。


前の座席には老人が目を見開いたまま、
血まみれで死んでいた。


モニターに写り込んだのはこちらの風景だった。


それを確認する。


そして再び少女の顔を手で目隠しすると、
胸に押し付け次の車両に続く左側の扉を開いた。